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A Planet Named Shayol
November 6, 2009

こおろぎ嬢は、食卓二つを隔てた対手の薄暗い顔に向って、もう一つだけ声を使わない会話を送った。「御勉強なさい未亡人(この黒っぽい痩せた対手に向って、こおろぎ嬢はこの他の呼び方を知らなかった)この秋ごろには、あなたはもう一人の産婆さんになっていらっしゃいますように。そして暁けがたのこおろぎを踏んで、あなたの開業は毎朝繁盛しますように。こおろぎのことなんか発音したら、あなたはたぶん嗤われるでしょう。でも、私は、小さな声であなたに告白したいんです。私は、ねんじゅう、こおろぎなんかのことが気にかかりました。それ故、私は、年中何の役にも立たないことばかし考えてしまいました。でも、こんな考えにだって、やはり、パンは要るんです。それ故、私は、年中電報で阿母を驚かさなければなりません。手紙や端書は面映ゆくて面倒臭いんです。阿母は田舎に住んでいます。未亡人、あなたにもお母さんがおありになりますか。ああ、百年も生きて下さいますように。でも、未亡人、母親って、いつの世にも、あまり好い役割りではないようですわね。娘が頭の病気をすれば、阿母は何倍も心の病気に憑かれてしまうんです。おお、ふぃおな・まくろぉど! あなたは、女詩人として生きていらした間に、科学者に向って、一つの注文を出したいと思ったことはありませんか——霞を吸って人のいのちをつなぐ方法。私は年中それを願っています。でも、あまり度々パン! パン! パン! て騒ぎたかないんです」
地下室食堂はもう夕方であった。

—— 『こおろぎ嬢』 尾崎翠